| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-115

mtDNAと体表面炭化水素からみたシワクシケアリおよびその近縁群の分化パターン

*松月哲哉,野沢泰斗,市野隆雄(信州大・理)

従来の研究で、シワクシケアリMyrmica kotokuiのmtDNA系統樹において遺伝距離が大きく離れた複数の隠ぺい系統が存在することがわかっている(島本・関,私信)。さらにこのmtDNA系統と体表面炭化水素(CHC)のタイプとの対応関係についても予備的な研究が行われ、両者が完全には一致しないことがわかった(関,私信)。なお、CHCはアリの巣仲間認識に用いられ、その組成は種特異的であることが知られており、分類形質としての信頼性が確かめられている(Seifert,2009)。

本研究では、以上の研究をより詳細に検討した。まず、CHCの分析条件を統一し、さらに、mtDNAとCHC両方の解析を行うサンプル数を増やしたうえで、mtDNA系統ごとにCHC組成が特異的であるかを調査した。長野県内45地点から97コロニーを採集し、mtDNAのCOI領域473bpの塩基配列の決定とGC-MSによるCHCの分析を行った。

mtDNAの解析の結果、これまでの4系統(Mk-1〜4)に加え、1つの新たな系統(Mk-5)が発見された。旧北区に分布するクシケアリ属のmtDNA配列データ(Jansen,2009)を追加した系統樹では、Mk-1はM.rubraと近縁になり、Mk-2はM.ruginodisと近縁になった。Mk-3〜5はどのクシケアリ種とも近縁ではなかった。

CHCを分析しクラスター解析を行った結果、大きく3つのクラスター(A,B,C)にまとまった。AにはMk-1とMk-2が含まれ、Bにも同様にMk-1とMk-2が含まれた。Cの大部分はMk-3だったが、Mk-5の2コロニーも含まれた。以上の結果より、mtDNA系統とCHC組成のタイプは一致しなかった。発表では、mtDNAとCHCそれぞれの分化パターンと、それらの不一致の原因について考察する。


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