| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-137

食性指標としてのアミノ酸窒素安定同位体比の利用:土壌食物網研究への適用にむけて

*長谷川尚志(京大・理),力石嘉人,小川奈々子,大河内直彦(JAMSTEC),陀安一郎(京大・理)

土壌動物群集は多様性・生息密度ともに高いことや、陸上分解系の一員であることなどから様々な研究が行われてきた。たとえば、多様性維持機構や生態系機能に観点から土壌動物の食性に関して多くの研究があるが、古典的な餌選択実験や消化管内容調査のみでは、実際の野外での食性を推測するのは難しい。これに対し近年一般的になった安定同位体比による食性推定は、代謝時間を反映したより長期的情報であるとともに餌の依存割合をも反映したものであるため、既存の手法の欠陥を補うものとして有効である。しかし土壌動物においては、デトリタス食者の窒素安定同位体比は分解がより進んだ餌を食べる者ほど高い値を示すという連続的な上昇パターンがみられてきており、値を解釈するうえで栄養段階に伴った窒素同位体比の上昇との区別を困難にしている。

そこで本研究では新指標としてアミノ酸窒素安定同位体比を用いる可能性を探る。近年の研究により、アミノ酸の種類ごとに栄養段階に応じた同位体比の特異的な上昇パターンが存在することが明らかになってきている。特にフェニルアラニンの窒素同位体比は栄養段階を経てもほぼ変化しない一方、グルタミン酸の窒素同位体比は栄養段階に伴った上昇がみられることから、対象とする動物でこれらの値の差がどの程度拡大しているかをみることで、従来の同位体手法より正確な栄養段階を算出できると示唆されている。これらの知見は主に生食連鎖系で得られてきたものだが、土壌食物網においては分解者である微生物群集がアミノ酸合成能力に優れていることからデトリタス食者に特徴的なパターンがあることも予想される。本研究では以上のような考えのもと、中型土壌動物に関するデータを提示し、その解釈について検討する。


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