| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-158

湿原ユスリカ群集の年変動は空間スケールによって変化する

*冨樫博幸,鈴木孝男,占部城太郎 (東北大・生命科学)

宮城県蔵王山系に位置する山岳湿原、芝草平には大小様々な池塘が多数点在し、これら池塘内にはユスリカ幼虫が数多く生息している。ユスリカは水中に産卵し、幼虫時代を水中で過ごした後、羽化し上陸する。従って、ある池塘のユスリカ幼虫群集は産卵や羽化を介して他の池塘と潜在的な繋がりを持っており、各池塘のユスリカ幼虫群集を局所群集とすれば、湿原全体のユスリカ幼虫群集は地域群集を形成していると言える。これまでの調査によれば、ユスリカ幼虫の局所群集構造は、底質や捕食者など生息場所の環境要因や池塘の位置や立地などの空間要因では十分説明出来ず、産卵による移入などの偶発的なイベントにより決定されていることが示唆されている。もし、局所群集がこのような偶発的な要因により決定するのであれば、同じ局所群集でも年によって構造が大きく異なると考えられる。本研究ではこの可能性を検証するため、芝草平の2つの湿原から計40池塘を選び、2004年から2006年までの3年間、春・夏・秋の3回、ユスリカ幼虫の定量採集を行った。

その結果、湿原全体ではユスリカ幼虫の群集構造には、毎年決まって見られる季節性があることが分かった。しかし、池塘ごとに見た場合、ユスリカ幼虫の群集構造には明瞭な季節性は見られず、同じ池塘でも群集構造は季節によって、また年によって大きく異なっていた。これら結果は、ユスリカの親個体群がどの池塘で産卵するかというような偶発的な要因が、各池塘における幼虫の群集構造の決定に重要であることを示している。


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