| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-162

河川中上流域の魚類の空間ニッチ重複パターン

*中川 光,渡辺勝敏(京大院・理)

環境勾配に沿った種間の空間的な分布やニッチ重複パターンの違いを明らかにすることは、群集における多種共存機構を理解する上で重要なステップである。河川環境は、上流−下流方向の連続的な変化とより小さなパッチ状の変化(ミクロハビタット)という2つの空間スケールの環境変異をもつ。河川に生息する魚類は、こうした2つの空間スケールの環境変異に関連してニッチを分割している可能性がある。温帯河川群集には多数の魚種が共存するが、複数の空間スケールを考慮した多種間のニッチ重複パターンは十分に検討されていない。そこで、私たちは、上流−下流とミクロハビタットスケール双方の種間のニッチ重複パターンを明らかにするため、京都府由良川の最上流部から約40km下流までの河川中・上流区間において、魚類の分布と複数の環境要因の詳細な調査を実施した。まず、観察個体数の多かった16魚種について各魚種の分布と各環境要因との関連を調べた結果、上流−下流スケールの環境変異とミクロハビタットスケールの環境変異(水深、流速等)はいずれも各魚種の分布と有意に関連していた。次に、各魚種の分布データを目的変数に、他魚種の分布データを説明変数として、全魚種間の組み合わせについて、上流−下流とミクロハビタットスケールそれぞれでGLMによる回帰を行い、各魚種間の分布の重複・分割傾向を検討した。その結果、上流−下流またはミクロハビタットにおける明瞭なニッチの分割傾向は、調査区間の上流−中流部を中心に生息する種を含む組み合わせで多く見られた。一方、下流部の流れの緩やかなミクロハビタットを中心に生息する種間では、いずれの空間スケールにおいても似たような分布傾向を示す種の組み合わせが多かった。以上より、魚類の多種共存における空間ニッチ分割の重要性は、河川の上流−下流に沿って連続的に変化している可能性が示唆された。


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