| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-183

飼い慣らされたアリモドキウムシにメス殺しが現れた?−超高密度環境で生じた致死的な操作形質−

*城本啓子, 熊野了州, 栗和田隆(琉球産経), 原口 大(沖縄防技セ)

天敵の生産や不妊虫放飼法において昆虫の大量増殖は必要な技術である.しかし,大量増殖は室内で長期間・高密度下での累代飼育になるため,野外とは全く違った選択圧がかかることが予想される.

沖縄県病害虫防除技術センターでは,不妊虫放飼に用いるアリモドキゾウムシCylas formicariusの累代大量飼育を現在約10年(約70世代)行っている.本種の雌は1度交尾をするとフェロモン分泌を停止するため,野外では再交尾の機会はほとんど無いとされる.一方,増殖虫は雌雄が大量に狭い空間にいるため,野外とは違い雌は複数回交尾する機会が多いと考えられ,何らかの形質の変化が起こっている可能性が高い.強い交尾競争環境である増殖虫では雄による雌の再交尾の遅延・抑制など性的対立が生じると考えられる.当センターで飼育されたアリモドキゾウムシ増殖虫と野生虫の間には10年以上遺伝的交流はほぼなく,系統独自の雌雄間の軍拡競走が起こっていると考えられる.

そこで本研究では,増殖虫と野生虫を用いて系統間で交尾をさせた.増殖虫雄と2週間ペアにした両系統の雌ともに死亡率は高くなり,増殖虫雄は雌の寿命になんらかの影響がある事が示された.そこで,雌を殺す雄がいるのかを調べるため,4日間増殖虫雌雄を同居させ,翌日新しい未交尾の増殖虫雌に入れ替え再び4日間同居させた.その結果,1回目の同居雌が死亡したペアの雄は,2回目に同居した雌の死亡率も高くする事が分かった.これらの結果より増殖虫では性的対立が大きく,雄では雌を短期間に殺してしまうという特殊な操作形質が一部に現れていると考えられた.一方,予想に反して増殖虫雌ではその雄に対する対抗適応が低いという事が示された.


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