| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-184

最小イカ:ヒメイカの世界では小さいオスが”密かに”もてる 〜精子排除によるCryptic Female Choice〜

*佐藤成祥(北大院・環境), 春日井隆(名古屋港水族館),宗原弘幸(北大・FSC)

頭足類はオスがメスに精子の詰まったカプセル(精夾)を渡す交接と呼ばれる繁殖様式を行う。交接時に精夾から精子塊が飛び出てメスの体に付着するのだが、ヒメイカではメスが交接後に口を伸ばして精子塊をついばみ、排除していることが確認されている。交尾が終わった後にメスが受精に使用する精子を選択することを“メスによる密かな性選択(Cryptic Female Choice: CFC)”と呼ぶが、ヒメイカはこの行動によってCFCを行っているかもしれない。そこで本研究では、CFC検証の足がかりとして、メスがどのような時についばみ行動を行っているか明らかにすることを目的とした。

オス、メスそれぞれ1個体を同じ水槽に入れ、交接させ、その後1時間メスの行動をビデオで記録した。録画した映像から、交接時間、付着精子塊数、ついばみ行動に費やす時間(ついばみ時間)、ついばみによって排除された精子塊数を計測し記録した。

ついばみ時間と精子塊排除数には正の相関がみられた。このため、ついばみ時間はメスによるオスの拒否を反映するものと見なすことができる。そこで次に、ついばみ時間がどのような要因によって説明できるかを調べるためにオス、メスそれぞれの体サイズ、オスとメスの体サイズ比、交接時間、付着された精子塊の数を説明変数としてフルモデルに組み込み、AICによるモデル選択を行った。その結果、ついばみ時間の長さはオスの体サイズと交接時間によって最もよく説明され、大きいオスと交接した時、そして交接時間が長かった時ほどついばみ時間が長くなることが明らかとなった。以上の結果から、体の小さいオスは早い成熟によって生じる長期の繁殖参加や隠遁能力の高さを反映し、交接時間の短いオスは捕食者に見つかりにくい形質と考えられ、ついばみ行動は適応度の高いオスの配偶者選択に機能していることが示唆された。


日本生態学会