| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-188

希少淡水魚ゼニタナゴの繁殖生態と生活史

*松井亜希子(宇都宮大院教育),北村淳一(東邦大理),上田高嘉(宇都宮大教育)

ゼニタナゴAcheilognathus typusは,コイ科タナゴ亜科の純淡水魚類で生きた淡水二枚貝類の鰓内に卵を産み込むという特徴的な産卵様式を持っている.本研究では,秋田県のため池において,本種の繁殖生態,生活史,産卵母貝利用について2009年6月から11月にかけて調査を行った.本種は,秋に産卵し貝内で幼魚の状態で越冬して翌春に貝から泳出するという生活史を持ち,長い産卵管,大きな卵,ウジ虫の様な行動をする幼魚など貝内を利用するための様々な適応形質をもっていた.

具体的には,本種は年級群が3つ確認され,寿命は最大3歳と推定された.3つの年級群は6月に平均体長は各1 cm, 3 cm, 4 cmで,1 cmの2008年秋生まれの年級群は,貝から泳出した直後で,水面で群れていた.その後,9月までに3 cmとなり成熟し,産卵管を約3 cm体外に伸長させて小さいドブガイ属貝類に10月まで産卵していた.完熟卵は長径約3 mm,短径約1.3mmで他のコイ科魚類よりも大きめで,体サイズに依存するが平均46個(最大102個)持っていた.卵は産卵後約3-5日で孵化し,孵化した幼魚はウジ虫の様な行動をしていた.大きな卵と幼魚のウジ虫の様な行動は貝から吐き出されないための適応と推測された.

成魚は産卵期の進行と共に雌の捕獲割合が減少し,雌は産卵後死亡しやすいと推定された.成魚は産卵期中(9-10月)成長せず,生残個体はそのまま越冬し,春から秋の産卵期までにいずれの年級群も約1 cm(9月に各平均体長4 cmと5 cm)成長した.

まとめると,本種は,秋(9-10月)に産卵し,約9ヶ月間という長い間貝内で過ごし,春(6月)に貝から泳出する.その後,急速に成長し秋に成熟して産卵し,産卵後死亡または生残して春に再び成長し翌秋に産卵するという生活史を持っていた.


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