| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-204

ヤマトシロアリにおける幼若ホルモンを介した兵隊カースト分化の調節

*渡邊 大(富山大院・理工),後藤寛貴(北大院・地球環境),三浦 徹(北大院・地球環境),前川清人(富山大院・理工)

シロアリは分業を伴う形態多型(カースト)を有し,最適なカースト比の維持がコロニーの適応度に寄与する。特に防衛に特化した兵隊の割合は厳密に調節されていると考えられ,多くの先行研究があるが,至近的機構は未だ不明である。ヤマトシロアリでは,兵隊の存在によって,幼若ホルモン(JHIII)投与による職蟻からの兵隊分化率の低下と形態形成の抑制が起こる。このことは,兵隊によるJH量の調節を介した生理機構の存在を示唆する。そこで本研究は,職蟻のJH量及びJH関連遺伝子の発現量を解析することで,兵隊が分化過程の職蟻に与える影響を明らかにすることを目的とした。

0,20,40μgのJHIIIを浸透させた55mm径の濾紙と職蟻をシャーレに設置し,兵隊分化を誘導した。各JH処理区に兵隊同居区及び非同居区を設け,実験開始から0,5,10,15日目の職蟻を回収し,JH量を測定した。その結果,5日目にかけて職蟻のJH量が処理JH濃度依存的に上昇した。また5日目において,兵隊と同居した職蟻のJH量は非同居区の職蟻よりも有意に減少することが示された。同じサンプル系列を用い,兵隊分化に重要だとされるJH量調節因子の遺伝子発現を解析したところ,兵隊の有無による差が5日目で最も顕著だった。JH処理後の兵隊との接触期間を変えると,2日間兵隊と同居した職蟻でも兵隊分化が抑制される傾向にあり,4日以上の同居の効果に差はなく,非同居の場合と比較して有意に兵隊分化が抑制された。以上より,兵隊の存在は即時に職蟻へと伝わり,JH量の減少と生理環境の改変をもたらし,兵隊分化や形態形成を抑制すると考察される。兵隊は変化するコロニー状況に即座に応答し,厳密に職蟻のJH量を調節して兵隊比を維持するのだと考えられる。


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