| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-220

多型頻度の緯度クライン:夏への適応と隠蔽度

*鶴井 香織(京大院・農・昆虫生態),本間 淳(京大院・理・動物行動),西田 隆義(京大院・農・昆虫生態)

ハラヒシバッタの黒い斑紋は輪郭の検出を妨げる「分断色」として隠蔽度を高める。隠蔽の観点からは全てのバッタが分断紋を持つことが予測される。しかし、メスは全ての個体が分断型だが、京都市岩倉のオスは約7割が無紋型である。このように相対的に隠蔽度の低い無紋型が高い頻度で維持される現象は、隠蔽の観点からだけでは説明できない。分断オスー無紋オスの平衡頻度はどのように決まっているのだろうか?

変温動物の体色は隠蔽だけでなく体温調節にも関与し、黒っぽい体色ほど体温上昇を促進する。ハラヒシバッタのオスは開けた環境で配偶者探索を行う。そのため、オスでは開けた環境にいかに長く滞在できるかが重要である。繁殖期の5〜10月には生息地はしばしば高温になるため、オスではオーバーヒートがコストになりうる。分断紋は黒いことから、オスにおける分断紋のコストはオーバーヒートによるメス探索時間の減少であり、分断紋の有無は隠蔽と体温調節のトレードオフで決まっていると予測された。さらに、この予測が正しければ、涼しい気候の個体群ほど分断オス頻度が高くなることが予測された。

実験室においてバッタが輻射熱ランプ照射下に滞在する時間を比較した結果、分断オスの方が無紋オスよりも滞在時間が短かった。このことから分断紋にはオーバーヒートしやすいというコストがあることが示唆された。さらに、青森〜高知における分断オス頻度調査の結果、高緯度地方ほど分断オス頻度が上昇するという緯度クラインが観察された。また、京都の比叡山においても標高が高い個体群ほど分断オス頻度が高くなった。これらの結果から、ハラヒシバッタオスにおける分断型頻度の緯度クラインは「隠蔽の利益」と「夏期の繁殖行動における体温調節のコスト」のトレードオフの平衡点が異なることにより形成されると考えられた。


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