| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-225

ナゴヤダルマガエルの生態

*内藤梨沙,夏原由博,森本幸裕(京大・地球環)

ナゴヤダルマガエル(Rana porosa brevipoda)は、環境省レッドデータブック絶滅危惧IB類にあげられている、主に広い水田地帯に分布する種である。本種の減少の理由として、農業の近代化に伴う水田における水管理の変化、圃場整備による生息環境の変化などが指摘されている。また遺伝子レベルでも近似種であるトノサマガエルとの交雑が報告されている。しかし、未だ減少の理由は不明な点が多く、分散、行動範囲の季節変動などを含んだ、コミュニティーレベルの生態の研究はほとんど行われていない。本研究では、保全対策の急がれる本種の生態を、水田観察、ラジオテレメトリー法、再捕獲法、ICレコーダー等を用いて、季節消長、生活史の各ステージにおける分散等に注目し、2009年3月から11月に滋賀県高島市安曇川において調査を行った。調査地は琵琶湖湖畔に位置する、休耕田をビオトープとして利用するため整備された、隣接した2つの池である。

調査対象地において、繁殖期、非繁殖期、周辺水田の収穫後の時期にラジオテレメトリー法を用い、ナゴヤダルマガエルの行動範囲を調査した。全ての期間において、全ての調査対象個体が池の中に留まった。再捕獲法を用いた調査においても、1年を通して隣接した2つの池の間で個体の移動はほとんど確認されなかった。周辺の水田観察では、水田で中干しが行われている時期に、側溝、排水路に落下した幼体が多く確認された。また、9月下旬には落下した成体が確認された。以上の結果より、本種は1年を通じ水辺を離れず、繁殖、採餌を行い、分散は幼体の時期に行われ、季節間の移動は越冬地と繁殖、採餌を行う水辺の間で行うことが示唆された。今後は本種の個体群の構成や個体群間の交流の分析を遺伝子解析により行い、分布様式を更に詳細に調査する。また水田地帯における本種の保全の手段として休耕田のビオトープ利用を提案する。


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