| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-228

アメンボ類の個体数変動と環境利用

*杉尾 文明,桜谷 保之(近畿・農・院)

アメンボ類では飛翔力を持つ有翅成虫・飛翔力を持たない無翅成虫両方が出現する種と、有翅成虫のみが出現する種があり、両者では利用する環境や空間的なスケールが異なる可能性がある。そこで本研究ではアメンボ類各種の活動期の個体数変動・移動距離、越冬期の利用環境について調査を行った。

奈良県北西部に位置する奈良市のため池や小水域計13ヶ所においてアメンボ類の個体数変動を調査した。その結果、6種類中4種類のアメンボで生息地により発生ピークのズレや発生期間の違いが認められた。これは各生息場所の環境の変化などにより個体群が変動したか、個体が移動した結果と推察された。アメンボ類の生息地間の移動を確かめるためマーキング調査を行ったところ、3種で移動個体が確認された。移動距離は、有翅・無翅成虫両方が出現するナミアメンボが最も長距離を移動していた。すべての成虫が有翅であるヒメアメンボとヤスマツアメンボでは、一時的水域を主に利用する前者の方が、林内の小水域やため池に生息する後者よりも移動距離が長かった。アメンボ類の移動距離は翅型の違いに加えて生息する水域の安定性が影響していると考えられた。また、ため池において水際周辺の植物群落で越冬しているアメンボ類の成虫個体数をカウントした。その結果、植物群落の根元部分においてハネナシアメンボ無翅成虫の越冬を確認できたが、ハネナシアメンボ有翅成虫、ナミアメンボ、ヒメアメンボは確認できなかった。飛翔力を持つ個体では越冬時に大きく水際を離れ、春季に異なった生息地への分散が行われると考えられる。

以上のことよりアメンボ類は生息地により発生消長が異なり、その一因として水域間を移動している可能性が推察された。また、飛翔力の有無によって越冬期に利用する環境が異なることが示唆された。


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