| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-230

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボ個体群の年変動:既存生息地と創出地

*寺本悠子, 渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

汽水域のヨシ群落で一生を完結するヒヌマイトトンボは、近年の護岸工事等による生息地の減少に伴い、絶滅危惧I類に指定されている。本種の地域個体群の一つが、三重県伊勢市の下水処理施設建設予定地内の小さなヨシ群落(既存生息地)で発見された。この個体群の保全を目的として新たな生息地を創出するため、既存生息地で環境調査を行なった結果、本種が生活する既存生息地のヨシ群落は葉や茎が密生した現存量の多い閉鎖的な空間であることが明らかとなった。本種にとって捕食者や競合者となるアオモンイトトンボは直線的な飛翔を行なうため、閉鎖的なヨシ群落は侵入しにくい場所であり、ヒヌマイトトンボにとって好適な空間となっているといえる。したがって、新たな生息地で捕食者を排除してヒヌマイトトンボの個体群サイズを増加させ、既存生息地と同等の密度とするためには、ヨシ群落を常に閉鎖的に保つことが重要であると考えられる。2003年、隣接する放棄水田にヨシの地下茎を密に植えて、新たな生息地(創出地)を創出した。創出当初のヨシ群落は植え傷みのために現存量が低く開放的であったが、年々生長して既存生息地と同様の現存量を示し閉鎖的となった。この創出地のヨシの現存量と次年度のアオモンイトトンボの幼虫個体数に負の相関が見られたことから、生息地の空間が閉塞的になることで創出当初存在していたアオモンイトトンボが徐々に排除されたことが示された。アオモンイトトンボの幼虫個体数とヒヌマイトトンボの個体群サイズにも負の相関が見られたことから、アオモンイトトンボが排除されることにより創出地の本種の個体群サイズが増加するといえる。2003年以降、創出地で本種の個体数サイズは増加を続け、現在では既存生息地と同等の密度となっている。したがって、生息地の物理的な構造が本種の個体群サイズに影響する可能性が示唆された。


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