| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-243

エゾシカの個体数増加とヒグマによるエゾシカ新生子の捕食

*小林喬子(東京農工大・連合農),佐藤喜和(日大・生物資源),梶 光一(東京農工大・農)

北海道東部を中心に、1990年代にエゾシカ(Cervus nippon)の個体数が急増し、それに伴いヒグマ(Ursus arctos)によるシカ利用が増加したことが報告されている。その原因として、シカの駆除や狩猟で生じた残滓の増加が関係していると考えられている。しかし、近年シカの個体数および駆除数は減少または横ばいであるのにも関わらず、ヒグマによるシカ利用は減少していない。海外の研究で、有蹄類の個体数増加に伴いクマ類による有蹄類の新生子捕食が増加したことが示されていることから、北海道においてもヒグマがシカの残滓だけでなく新生子を捕食するようになったことが予想される。

シカの個体数変動とヒグマの新生子捕食の関係を明らかにするため、ヒグマよる新生子利用のモニタリング方法の確立、およびシカ分娩期に北海道東部でシカ個体数の多かった時期(1999-2000年)と減少した時期(2006-2008年)に回収されたヒグマの糞に占める新生子の年次変化の算出、を行った。

シカ1歳子および新生子の被毛を採取し観察した結果、被毛幅から新生子を識別することが可能であった。これより、ヒグマの糞から出現したシカの被毛幅を基にヒグマによる新生子利用をモニタリングすることとした。

上記で得られた識別基準を用いてヒグマの糞に占める新生子の割合を算出した。その結果、ヒグマによる新生子の利用は1999-2000年と比較して2006-2008年は増加していることが示された。

以上のことより、ヒグマはシカの個体数増加により新生子を捕食するようになったこと、そしてヒグマの採餌行動には学習の影響が大きいことから、資源量が減少したにも関わらず捕獲が容易である新生子の利用が近年増加していることが考えられた。


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