| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-278

リュウキュウアユのなわばりの安定性に対する評価

*安房田智司, 鶴田哲也, 阿部信一郎, 玉置泰司, 井口恵一郎(中央水研)

両側回遊魚であるアユは、成長期を河川の中流域で生活し、水底の付着藻類を食べる。アユは摂餌なわばりを構えるといった独特の生態を持つ。しかし、なわばり維持のコストが利益よりも上回るような小型個体は、群れ摂餌を行うことも知られている。アユの亜種リュウキュウアユは、亜熱帯域に生息し、形態的にも遺伝的にも本州産のアユと異なる。リュウキュウアユの生息する河川は本州よりも藻類の生産性が低く、生物群集も異なることから、アユの摂餌生態は亜熱帯域に適応している可能性が高い。しかし、本種の摂餌生態に関する知見は乏しい。本研究では、鹿児島県奄美大島におけるリュウキュウアユの摂餌生態を明らかにすることを目的とした。

役勝川の中流域約200mの区間で個体群構造を調査した結果、なわばりを持つ個体だけでなく、群れ摂餌や単独放浪摂餌する個体も多く見られた。なわばり個体は群れ個体よりも大型であり、成長には有利な摂餌戦術と考えられた。群れ個体は水底の付着藻類だけでなく、流下浮遊物を多く摂食していた。なわばり個体の詳細な観察から、なわばりの広さは1-5m2で本州のアユのなわばり(約1m2)よりも広かった。大型個体はより広いなわばりを維持したが、周囲のアユ密度が高い場所ではなわばりが狭くなっていた。小型個体はなわばりを失う率が高く、乗っ取った個体は常に元のなわばり所有者より大きかった。

これまでリュウキュウアユのなわばりは本州のものより不安定であると報告されていたが、なわばり戦術は本州のアユと同様に機能していることが明らかになった。しかし、摂餌戦術が多様であること、広いなわばりを維持することなどは、亜熱帯環境に適応したリュウキュウアユの特徴であると考えられた。


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