| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-300

ベイトトラップを用いたヒメボタル幼虫の移動分散距離の推定

*梯公平(東大・農・生圏システム),倉西良一(千葉中央博物館),鎌田直人(東大・農・演習林)

陸生ホタルの一種であるヒメボタル(Luciola parvula)は分布が局所的で、また生息地内でも個体数の減少が報告されているが、保全のために必要な生態に関する情報が不足している。本研究ではベイトトラップを用いた標識再捕獲法により、ヒメボタル幼虫の移動分散距離の推定を行った。実験は千葉県鴨川市の杉林で行った。コニカルチューブの蓋に5mm径の穴を三カ所開けたものをトラップとして使用した。本種幼虫は陸産貝類などを捕食しているものと推測されているため、ベイトとしてイカの切り身を入れた。30cm間隔の格子状に縦10×横10の合計100個のトラップを配置し、トラップの蓋が地表面と同じ高さになるように地面に埋めた。標識は、幼虫の背面全体に油性ペン(ゼブラ社製:マッキー赤細)でマークした。270cm四方の格子枠の中心点から標識した幼虫を103個体放逐し、各トラップの捕獲数を、放逐日の翌日から9日間毎日調査した。再捕獲率は53%(55個体)だった。拡散方程式に基づく自然平均分散距離(±SE)は、114(±58)cmと推定された。調査期間中降雨日が一日あり、降雨翌日とその翌々日で全捕獲数の78%を占めた。この結果から、幼虫の活動には降雨または土壌水分が影響している可能性が示唆された。実験に使用した幼虫の飼育中に、本種幼虫は水没によっても簡単に死亡しないが、乾燥すると容易に死亡することが、観察されている。したがって、野外調査でみられたように本種幼虫がおもに降雨後に移動分散することは、乾燥に弱い性質に関係した適応的な行動と考えられた。本種の分布は、地域的にも、また地域内でも局所的であることが知られているが、水分条件が本種の分布を制限する要因として働いている可能性もある。


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