| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-301

スナクダヤドムシの造巣行動における巣材選好性

*阿久津崇,青木優和(筑波大・下田臨海)

ヨコエビ類は沿岸魚類の主要な餌生物であり,恒常的な捕食圧を受けて生活している.これを回避するために,石の下や海藻など既存の構造体の表面または内部に隠棲する種と巣の構築を行う種とがある.造巣性種の多くは固定巣を形成するが,表在性種の一部には移動性の巣を形成するものがある.これらは特に強度の捕食圧に曝される環境で生活しているため,その生活戦略は興味深い.しかし,これらの生態については,未だにほとんど研究が行われていない.

スナクダヤドムシ Shiphonoecetes tanabensis はこれら砂底表在性で移動型の巣を構築するヨコエビの1種で,砂粒や貝殻,貝殻片を接着して管状の巣をつくる.移動時には巣から体の前半分を出して第 2 触角で基底面を打ち,後方へと跳ねる.夏季に個体密度が増して多数の個体が海底で動き回る様子は,さながら『動く砂』である.本種は巣を背負いながら移動するという点ではヤドカリ類と似ている.しかし,自身で巣を作ることができる点および成長に応じて巣を拡張できる点は,ヤドカリと異なっている.高い魚類捕食圧下でスナクダヤドムシがどのように捕食回避を行っているか,特に体を保護するための巣の構築に関わるメカニズムについては興味深い.

本研究では,主に巣のサイズや重量,巣材となる砂粒の粒径などに着目して,巣を利用する個体との関係を探った.調査地は静岡県下田市大浦湾内水深約 10 m の砂質底である.2009年4月からの定期採集サンプルの解析を行うとともに, 砂粒サイズ選好性についての室内実験と調査地点に高密度で生息するサビハゼ Sagamia geneionema の捕食圧についての室内実験から,巣の構築メカニズムと捕食回避の関係およびそれに関連した要因についての検証を行った.


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