| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-009

神奈川県愛川町におけるイトアメンボの活動期及び越冬期の分布状況

*松村和音(東海大院・人間環境),松澤貴之(東海大・教養),大木悦子(あいかわ自然ネットワーク),田島文忠(シャープゲンゴロウモドキ保全研),北野忠(東海大・教養)

絶滅危惧種イトアメンボの生態学的知見を得ることを目的とし、活動期及び越冬期の分布状況を調べた。2009年5月〜翌年1月に、神奈川県愛川町内の水田地帯において、越冬地である水路と繁殖地である水田で個体数を数えた。また、水路では壁の植生被度・湿度を、水田では畦等の最大植生被度・草高・水温・水深・水質等の環境要因を調べた。

その結果、水路では5月末まで多数の個体が確認された。その後個体数は減少し6月末にはほとんどみられなくなったが、9月以降に再び確認されるようになった。一方、水田では5月末から出現し、7月には幼虫も確認されたが、11月にはほぼみられなくなった。

越冬期における水路では場所により個体数が異なり、2地点に集中していた。これらの場所は植生被度が高かったことから、多数の個体が越冬するためには水路の壁が1/4以上の植物で覆われていることが必要と考えられた。一方、本種が越冬している地点とそれ以外の地点の湿度については有意な差はみられなかった。

活動期における水田でも、確認される地点に偏りがあった。そこで越冬期に個体数が多かった水路の2地点から各水田までの距離と水田の畦等の最大植生被度・草高・水温・水深について重回帰分析を行った結果、越冬地から近く、水深が浅い水田に多くみられる傾向があった。水質分析の結果では、多くの個体がみられる水田の水質は他よりも栄養塩類が低かった。これらの結果から、活動期では良好な水質の水田を好む傾向があり、越冬地に近く水深が浅い水田を生息地としていると推察された。また、越冬可能な地点と生息可能な水田が近接していることが重要と考えられるため、狭い範囲内にこれらの多様な環境を必要とすることが、本種の減少要因の1つと考えられた。


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