| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-071

韓国慶尚南道海岸におけるユーラシアカワウソ Lutra lutra 生息状況の1982‐2009年における変化

安藤 元一(東農大),韓 ソンヨン(韓国カワウソ研究センター),佐々木 浩(筑紫女学園大),*金 ヒョンジン(東農大),小川 博(東農大)

韓国に生息するユーラシアカワウソLutra lutraは同国の天然記念物に指定されているが、その生息環境である河川や海岸は開発によって急速に変化している。本研究の目的は、開発による環境改変がカワウソの生息に与える影響を、長期モニタリングを通じて探ることにある。調査地は湾奥に昌原市や馬山市という大工業地帯を抱えた慶尚南道亀山面の馬山湾海岸である。この海岸を1982年、1991-2年、2002年および2009年に踏査し、糞などの生息痕分布密度を調べた。カワウソ糞の見られない地域は1982年には汚染の進んだ湾奥から3kmの範囲に限られていたが、1992年の非分布地域は7kmの範囲に拡大した。しかし非分布域は2009年に至ってもそれ以上は拡大していなかった。糞の分布密度は2002年まで減少を続け、1982年に糞を確認した69地点のうち、2002年に糞が認められたのは7地点にすぎず、しかもそれらは岬や陸に近い小島に限られていた。しかし2009年の調査では更なる減少傾向は認められなかった。また2009年には湾奥から15km離れた小島で繁殖事例が確認された。調査地内の海岸は調査期間中に人工海岸化が進み、こうした海岸に痕跡は発見されなかった。しかしこうした地域であっても海上の養殖筏上にはカワウソのサインポストが見られ、本種がこうした施設を利用して行動圏内を定常的に往来していることが知られた。以上、大規模な工業地帯が存在しても、安全な休み場を確保することができれば、近郊数kmまではカワウソが安定して生息できる環境となりうることが知られた。


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