| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-077

遡上サケによる河川上流域への養分運搬量の年変動と河畔における産卵後サケ死体(ホッチャレ)の滞留構造

*長坂晶子,長坂有,小野寺賢介(北海道林試)

1990年代以降、北米を中心に進んだ研究により、サケ・マスなどの遡河性魚類の産卵後死体(ホッチャレ)が河川および森林生態系のなかで、生物生産性を高めるとともに生物多様性の維持にも貢献していることが明らかになってきた。しかしホッチャレは栄養循環の貴重な担い手と考えられているにも関わらず、これまでの研究では安定同位体窒素を用いた食物網解析、落ち葉の分解促進などに関するものが主体で、定量的な評価に関する報告はほとんどなかった。サケが河川および森林生態系のなかで有効に利用されるためには、河川及びその近傍で効率的に保持される必要があり、自然遡上河川においてどのような河川構造をもつ場所にホッチャレが保持されるか、また保持構造によってホッチャレの消費スピードに差異があるかどうかなどを明らかにすることは、サケ・マス遡上河川における物質循環の再生を考えるうえで貴重な知見を提供すると考えられる。そこで発表者らは、北海道南部のサケ遡上河川において350mの調査区間を設定し、区間を早瀬・平瀬・淵・砂礫堆といった地形単位に区分し、各地形単位におけるホッチャレの量を計測するとともに、各地形単位においてホッチャレがどのような構造(石、倒流木など)に保持されているかを記載した。調査は1シーズンに3回程度行い、地形単位ごとの消失過程についても把握した。調査は2003〜2009年までの7シーズン実施した。ホッチャレ量は最少で70尾(/350m)から最多で2200尾(/350m)と、年によって30倍の変動があり、遡上最盛期(11月)の降水量との相関が高かった。単位面積あたりのホッチャレ量は淵で多く、次いで早瀬であった。ホッチャレの保持には、石礫、倒流木が重要な役割を果たしており、それらの構造が乏しい区間ではホッチャレの量が少ない傾向があった。


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