| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-118

絶滅危惧種タチスミレの生育環境特性

*澤田みつ子(筑波大・院・生命環境),小幡和男(茨城県自然博物館),上條隆志(筑波大・院・生命環境),中村徹(筑波大・院・生命環境)

タチスミレは低湿地に生育する絶滅危惧II類の多年生草本である。環境省レッドデータブックでは本種が減少した要因として植生の自然遷移,河川開発,管理放棄があげられており残存する生育地をどのように保全・維持していくかが課題といえる。そのため本種の成長や繁殖の各ステージにおいて生育地の環境条件がどのような影響を及ぼすかを明らかにする必要がある。

本研究では関東地方の主な生育地である渡良瀬遊水地,菅生沼,小貝川の3地域を調査地とした。調査地には50cm四方のコドラートを122(渡良瀬遊水地50,菅生沼62,小貝川10)設置した。コドラート内のタチスミレの生育状況(実生個体数,越冬生個体数,開花個体数,花数)と環境(土壌水分率,土壌EC,相対光量子密度(地表面,草本層上))について2009年春期に調査を行った。タチスミレの生育環境特性を明らかにするため,タチスミレの各生育状況を従属変数,環境条件を独立変数としたGLMを作成しモデル選択を行った。

実生個体数は土壌水分と地表面の相対光量子密度が,越冬生個体数はすべての環境条件が変数として採用された。開花個体数は土壌水分率,地表面の相対光量子密度,草本層上の相対光量子密度が変数として採用された。花数は土壌水分率,土壌EC,草本層上の相対光量子密度が変数として採用された。すべての生育状況に関して、変数として採用されたのは土壌水分率であった。土壌水分率,地表面の相対光量子密度はいずれの生育状況に対しても正の関係であった。一方、土壌ECは越冬生個体数とは負の,花数とは正の関係であった。このことは、タチスミレの成長や繁殖のステージによって要求される環境に差異があることを示していると考えられる。


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