| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-119

絶滅危惧昆虫オオムラサキ幼虫の生息環境とその特性

*前田浩志,桜谷保之(近畿大・農・院)

オオムラサキは鱗翅目タテハチョウ科に属する昆虫で、里山の代表的な種であるが、近年の里山の開発・管理放棄により生息地、個体数ともに減少傾向にある。これまでに各地で幼虫や成虫の餌資源となるエノキやクヌギを植樹し、生息地を修復する試みがなされている。オオムラサキは幼虫で越冬し、その際、エノキの根元の落ち葉の裏に潜む。近縁のゴマダラチョウやアカボシゴマダラが樹上でも越冬できるのに対して本種が落ち葉の裏を好むのは乾燥に弱いためとされている。そのため落ち葉の量が多いほど越冬環境として好適と考えられている。本研究では近畿大学奈良キャンパス(奈良市中町)で調査し、エノキの根元に存在するリター量とオオムラサキの越冬幼虫数の関係について調査し、好適な環境について解明することを目的とした。また、沢に面したエノキと斜面・尾根に自生するエノキについて幼虫数とリター量を調査し、環境ごとに比較した。なお、普通種ゴマダラチョウについても比較対照として同様に調査した。

調査は2008年の12月から2009年4月に行ない、キャンパス内に自生するエノキ52本を調査した。エノキ根元から半径50cm以内に存在する落ち葉を全て調査し、確認された越冬幼虫数を記録した。また、同範囲内からランダムに15cm×15cmのコドラートを4ヶ所設け、その中にある落ち葉を採取し、乾重量を測定した。

オオムラサキの幼虫数はリター重量が多くなるほど有意に増加し、その傾向はゴマダラチョウよりも強かった。また、エノキ1本当たり平均幼虫数は沢に面した環境と斜面・尾根とでは斜面・尾根でやや多い結果となったが、リター重量は沢の方が半分程度であり、越冬には落ち葉の重量以外の要因も働いていることが示唆された。


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