| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-131

日本に生育する絶滅危惧種トキワマンサクの全野生個体解析による多様性評価

*水谷未耶(京大・農),兼子伸吾(京大院・農),井鷺裕司(京大院・農)

トキワマンサクLoropetalum chinenseはマンサク科の常緑亜高木で、中国南部・台湾・インド北東部にかけて分布し、 日本にも少数自生する。日本国内の自生地は、静岡県湖西市(70個体程度)・三重県伊勢神宮林(10個体以下)・熊本県荒尾市(20個体以下)に限られており、環境省のレッドデータリストでは絶滅危惧IB類(EN)に指定されている。その一方で庭園木として人気のある樹種であり、広く流通している。しかし、これらの園芸品は自生地の近くにも植栽されているため、野生個体と園芸品の植栽個体との交雑や遺伝子汚染なども懸念される状況にある。本研究では、トキワマンサクの野生個体や園芸品の植栽個体の遺伝的特徴を明らかにするために、日本国内に生育する全野生個体と園芸品の植栽個体、中国の野生個体についてマイクロサテライトマーカーを用いた遺伝解析を行なった。

遺伝解析の結果、中国の野生個体には同一の遺伝子型を持つものがほとんどなく、高い遺伝的多様性を示した。その一方で日本国内の野生個体では、多数の個体が同一の遺伝子型を示しただけでなく、複数の遺伝子座において対立遺伝子がヘテロ接合していた。多数の個体がヘテロ接合で同一の対立遺伝子を有するという結果は、有性生殖による組換えが生じていないことを示唆しており、同一の遺伝子型を有する多数の個体は、無性生殖に由来すると考えられる。したがって、日本国内の自生地内に生育するトキワマンサクには、挿し木などで人為的に個体数を増加させ植栽したものが多い可能性がある。


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