| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-165

渓畔域のスギ人工林における間伐後の植生回復とシカの影響

*川西基博(鹿児島大・教育),崎尾 均(新潟大・農),米林 仲(立正大・地球環境)

持続可能な森林経営において、人工林の管理と生物多様性の保全は重要な課題であり、渓畔林の再生が注目される。しかし、このような森林管理・施業は試行錯誤の段階であり、近年問題となっているシカ食害の影響も無視できない。本研究ではスギ人工林から渓畔林への誘導を目的とし、埼玉県秩父市浦山のスギ人工林において渓畔域に皆伐区、60%間伐区、30%間伐区、巻き枯らし区、無間伐区の5つの処理区を設け、植物の定着と発達を調査している。本発表では処理から4年後までの経過とシカの食害状況を報告し、シカ生息域における植生回復の初期過程について考察した。巻き枯らし区と無間伐区では植物の定着はほとんどなかったが、皆伐区、60%間伐区、30%間伐区では、伐採を行った翌年にフサザクラ、オオバアサガラ、シデ類、カエデ類等の広葉樹や陽地生の低木と草本類の実生が多数発芽した。フサザクラは伐採翌年に圧倒的に優占し、総個体数の76.1%を占めていたが、2年目以降著しく減少した。枯死幹の残った個体のほとんどに食痕が確認されたことから、シカによる被食が主な死亡要因と考えられた。その他の広葉樹も同様の傾向が認められた。一方、オオバアサガラは伐採後の発芽個体数は比較的少なかったものの、シカの食害は軽微で生残率が高く、伐採から4年後の時点で樹高約3m、被度約80%の密な群落を形成した。草本類では、オオバアサガラの被度増加とともに消失した種が多く、被陰、被食、侵食に伴う流亡などの死亡要因が予想された。オオバノイノモトソウ、イヌワラビなどのシダ類は生残率が高く、60%間伐区、30%間伐区で増加傾向にあった。以上のように、本実験区では渓畔林構成種であるオオバアサガラの優占林が再生しつつあるが、その再生過程にはシカの被食が大きく影響していると考えられた。


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