| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-188

シカの影響下で衰退した林床植生及び土壌機能の修復可能性−暖温帯広葉樹二次林における野外実験−

鈴木牧*,池田裕行,軽込勉,藤平晃司,三次充和,塚越剛史,廣嶋卓也,山田利博(東大演習林)

ニホンジカ(シカ)の増加による森林の地上・地下生態系への影響が全国で深刻化している.防鹿柵等を使ってシカの影響を除去し,生態系を修復する試みが行われているが,修復効果が芳しくないケースもある.そのような場合には,なんらかの補助的な措置が必要となる.

房総半島南部の広葉樹二次林(旧薪炭林)では,シカの影響で下層植生が消失し,土壌機能(物理性,動物相)にも間接的な負の影響が及んでいる.このような系を元の状態に修復する方法を探るため,東京大学千葉演習林内の広葉樹二次林において野外実験を行った.24個の10×10mプロットに,[防鹿柵を設置する/しない]×[上層木を伐採する/しない]の2×2処理いずれかを施し,各処理後の植生および土壌機能の変化を追跡,比較した.

処理後半年〜1年半の時点で,伐採区では下層植生の種数が急増し,伐採+柵区では下層植生の被度も急増した.こうした下層植生相の急激な変化には,埋土種子由来と思われる先駆的植物の発現が大きく影響していた.一方,伐採区では地温の上昇とLHF層の減少が起こって土壌動物密度が減少し,柵区ではLHF層の増加とリター・土砂流亡速度の減少が起こって土壌動物密度が増加した.その結果,土壌動物密度は非伐採+柵区で最も高かった.但し,実験開始後1年半が経過すると,伐採+柵区の一部では土壌動物密度が非伐採区と同程度まで回復した.

以上の結果から,暖温帯の旧薪炭林においては,防鹿柵設置と上層木伐採を同時施工することで,植生と土壌の機能を修復できる可能性が示唆された.逆に,上層植生の遷移段階を維持したまま下層植生を修復することは困難と考えられた.シカの影響を受けた森林生態系を短期間で修復することは難しく,ギャップ更新過程を想定した長期的な視点で取り組む必要がある.


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