| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-268

アリの巨大コロニーが世界を乗っ取る!?

*砂村栄力,鈴木俊(東大・応用昆虫),坂本洋典(北大・地球環境),西末浩司,寺山守,田付貞洋(東大・応用昆虫)

アリ類は外来種の中でも特に侵略性が高い。これらは‘スーパーコロニー(SC)’とよばれる無数の協力的な巣のネットワークを形成することによって高い生息密度を獲得し様々な被害を引き起こす。アルゼンチンアリは侵略的外来アリの代表格で、原産地南米から世界各地へ分布拡大した。日本へも近年侵入を果たし人為的運搬により西日本沿岸を中心に分布を拡大している。演者らはSCの成立要因および巨大化プロセスについて研究を行っており、まず、日本侵入個体群について行動学的・生化学的・遺伝学的手法による総合的な個体群構造・社会構造の解析を行った。行動試験の結果、相互に敵対する4つのSCを発見した。兵庫県神戸港には4 SC全てが分布していたのに対し、他の全ての生息地からは共通の1つのSCのみが確認された。アリ類の巣仲間認識フェロモンである体表炭化水素を分析した結果、SC間で成分・成分比に差が見られた。マイクロサテライト多型解析でもSC間でアレルの有無・頻度に差が見られた。これらから、アルゼンチンアリの巣仲間認識・敵対行動は遺伝的に決まった体表炭化水素に基づくこと、SCは人為的運搬により巨大化することが示唆された。興味深いことに、国内最大のSCの体表炭化水素は既報中の北米・ヨーロッパ各最大のSCと酷似していた。そこでこれらの地域から生体を輸入し日本のSCとの行動試験を行ったところ、三大陸で各最大のSC同士は相互に敵対性を示さず、地球規模のSCの存在が示唆された。この協力的集団は人間社会につぐ規模のもので、また、人間がアルゼンチンアリ(おそらく特定のSC)を世界各地に持ち運んで造りあげたという点で非常にユニークな存在である。


日本生態学会