| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S09-7

遺伝子解析から見た沖縄から本州沿岸の黒潮流域におけるイシサンゴ類の地域特異性

*深見裕伸(京都大・フィールド研), 鈴木豪(西海区水研・石垣)

種子島以北の九州・四国・本州の温帯域と呼ばれる黒潮流域沿岸には、サンゴ礁地形はできないものの実は多くの造礁性イシサンゴ類が生息している。実際、高知県や和歌山県南部では100種以上(沖縄の1/3程度)の造礁性イシサンゴ類が報告されている。ただ、これまで、これら温帯域に見られる造礁性イシサンゴ類のほとんどは黒潮に乗って沖縄方面から移入してきた幼生が生育したものと考えられていた。また、沖縄と温帯域の間で同一種内の形態変異が認識されてはいたものの、その違いは温帯域の低水温の影響によるところが大きいと考えられていた。このように温帯域の造礁性イシサンゴは、基本的に沖縄と同じであるという考えがあるため、その注目度は研究分野に限らず非常に低く、その知見は少ない。

しかしながら、温帯域と沖縄の両地域から採集した造礁性イシサンゴ類の遺伝子解析を行ったところ、複数の分類群では、温帯域の集団で特異的な変異を有しており、沖縄の集団とは遺伝的に大きく離れていることが明らかとなった。このことは、温帯域が、実は沖縄方面から隔離されており、しかも温帯に特化した種が多いということを強く示唆した。このように温帯域は、貴重なイシサンゴ類の宝庫である可能性が高い。その一方で沖縄の集団からの遺伝子移入が起こっていると考えられる分類群も温帯域でみられた。今後水温上昇が進行すれば、ますます温帯域に沖縄方面からのサンゴが移入し温帯域の集団と混ざってしまう可能性が考えられる。そうなる前に早急に温帯域のイシサンゴ類の詳細な調査・研究を行い、この貴重な温帯域のイシサンゴ類の全貌を解明する必要があるだろう。


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