| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S12-3

鳥インフルエンザの発生拡大に関わる生態学的要因

長 雄一(北海道環境科学研究センター)

鳥インフルエンザの発生拡大の要因に野生鳥類の関与が挙げられているが、野生鳥類に関する各種情報が不足している。因果関係の解析及び対策の検討手法等を確立するためには、複合的・学際的な学問領域の適用が必要と考える。今回は、発表者が関わった環境省環境技術開発等推進費「野生鳥類の大量死の原因となり得る病原体に関するデータベースの構築」及び日本野生動物医学会感染症対策委員会保全医学専門家チームの諸活動における知識・経験をもとに、以下のようなキーワードで様々な問題解決に至る糸口を提示していきたい。

○電子カルテ:野生動物の死亡・衰弱個体について、その発見日時・場所・要因・計測値・解剖所見等を、広域・長期において記録・蓄積・解析を行うことは、野生動物の生物学的特性把握及び感染症を考える上での基盤情報となる。

○空間疫学:ある疾病の発生状況を時空間的に解析し、感染ルートの解明やそのリスク評価を行うのが、空間疫学の目的であるが、野生動物への適用には様々な独自技術の開発が必要である。前述の電子カルテがその有力ツールの一つとなる。

○ 保全医学:人間あるいは野生動物の健康を、健全な生態系の一要素という視点で捉える複合領域である。人獣共通感染症等の疾病発生の因果関係解明・対策立案が大きな目標であるが、それを扱う人材育成も目標の一つである。

○統合型GIS(地理情報システム):人間社会、生態系あるいは野生動物の個体情報等を統合化するためには既存のGISの機能拡張が有効である。多方面にわたる情報の共通化・共有化に関しては、社会的な合意形成が必要であるが、GIS等の情報技術を活用した可視化による情報開示が、その合意形成を促し、適切なリスク評価につながると考える。


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