| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S13-1

イントロダクション: MABと生物圏保存地域

松田裕之, 酒井暁子(横浜国大・環境情報)

ユネスコは「人間と生物圏(MAB)」計画の柱として「生物圏保存地域(Biosphere Reserve; BR)」の指定を行っている。日本では1980年に屋久島、大台ヶ原、白山、志賀高原の4カ所が指定された。現在のBRは自然度の高い「核心地域」、「緩衝地帯」、人の利用も可能な「移行地域」といったゾーニングシステムを採用しているが、上記4カ所には移行地域が指定されていない。BRは世界遺産とは異なり、主目的は、自然の持続的利用を通じた文化的多様性の維持や地域社会であり、移行地域が重要な意味を持つ。

MABのコンセプトは日本の生物多様性国家戦略にある「第2の危機」に対処する上で極めて有効である。知床や屋久島など日本の世界遺産も、利用と保全の調和を図る取り組みが評価され、知床では上記のゾーニングが登録時の管理計画に明記され、むしろMABに相応しい地域である。また、核心地域でシカが過剰となり、知床では核心地域でのシカ捕獲を実施している。核心地域も、手つかずのまま遷移に委ねるとは限らない。知床世界遺産科学委員会でも、BRへの二重登録が議論されている。世界遺産指定後にBRに指定した前例にはガラパゴスがある。

日本では現在「MAB計画委員会」が中心となり、担当省庁である文部科学省や関連省庁、地域行政と協議しながら新規登録を目指している。登録地は、景観レベルでの良好な生態系を対象とすること、また科学的なモニタリングや基礎研究が必要となること、さらに現地での環境教育が重視されることから、登録地の選定から登録後の維持管理まで生態学者の幅広い関与が必要である。

本講演では、MABの理念を、屋久島と知床における持続的利用と保護の調和をはかる取り組みなどを例に議論する。


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