| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S14-6

新世代遺伝手法を生態学にどう活かす?

田中健太(筑波大・菅平セ)

新世代遺伝手法は、1個体を対象にした大量遺伝子の同時解析や、1遺伝子を対象にした大量個体同時解析を可能にする。前者の進歩が先行し、後者も徐々に容易になってきた。これらの大量解析は何の役に立つのか?おおむね次の3点に整理できる。

(1)エコゲノミクス:生態学的形質を担う遺伝子の同定には「大量遺伝子解析」が、同定された遺伝子の解析には「大量個体解析」が大いに役立つ。ではそもそも遺伝子が分かると何が良いのか?まず、進化生態学の従来の最適戦略理論が予測してきた平衡点も、平衡点に達する速度も、形質の変化における遺伝学的な制約や形質を司る遺伝体制に大きく左右される。したがって遺伝子が分かれば、進化の向きも速さについての理解が大きく進む。

(2)個体・種を同定するマーカー:クローン植物や微生物群集などでは、遺伝子を調べる方が個体・種の同定が容易である。微生物群集では、「大量個体解析」によって単離培養なしに環境DNAから種多様性や群集構造を直接調べることが、スタンダードな手法としてすでに定着している。

(3)ゲノム集団遺伝学:Wrightの島モデルなどの古典的な集団遺伝学では、各集団の集団サイズ一定、集団サイズは時間的に不変、自然選択なし、ジーンフローの方向性なし、などを仮定してきた。しかし実は、これらのパラメーターこそ生態学の興味の対象であり、「大量遺伝子解析」による豊富な遺伝子データがあればコアレセント理論を基にした理論によって推定できる。

それでは、これらの研究はどんな野生生物でも行えるのか?(2)、(3)はおおむねYes。(1)は、遺伝子から表現型に至る遺伝的カスケードの情報が多いモデル生物近縁種の有利性は動かないが、そうでない生物でもアッセンブリ前のドラフトゲノムや新規マイクロアレイを入手する障壁は大きく下がってきており、工夫次第でかなりのことができるだろう。


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