| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S15-3

農業生態系におけるフェノロジー調節の遺伝子-環境相互作用モデルによる理解

中川博視(石川県大)

フェノロジーは作物の環境適応性を決定する最も重要な形質の一つである。作物生産を安定化・最大化するには、作物がライフサイクルを好適な季節のうちに全うし、環境資源を安全かつ最大限に利用することができるようにフェノロジーを注意深く環境条件に合わせなくてはならない。現在、フェノロジーに関する遺伝学的情報が主要作物種で急速に蓄積されつつある。特に短日植物のモデル植物でもあるイネでは、十数個のQTLが報告され、そのうちの幾つかについてはすでに遺伝子の単離や機能解明が行われている。一方、日々の気温や日長の経過から、ある作物品種の出穂日・開花日を予測する、現象論的ではあるが、実用的なフェノロジーモデルが開発され、開花日予測システムの構築や生育・収量シミュレーションモデルのクロックとして用いられている。

演者らは、イネの出穂期予測モデルのパラメータをQTL解析することで、それらのパラメータを遺伝的形質として取り扱うことが可能なこと、およびQTLの機能推定が可能なことを示してきた。さらに出穂期関連QTLの遺伝子型と日々の気温、日長条件から、出穂期を予測するモデルを開発した。ここでは、以上のような遺伝子-環境相互作用型フェノロジーモデルと、それを用いた出穂期関連QTL型の環境適応性シミュレーションについて紹介したい。演者の研究動機は、MAS(Marker Assisted Selection)によって優良形質を保持しながらフェノロジー応答の異なる品種群を育成することが可能になってきたこと、および気候変動の懸念によって最適なフェノロジー応答を設計する方法開発の重要性が高まってきた等の実用的見地に発しているが、最後に、フェノロジー環境応答の分子的基盤からの理解に向けて若干の考察を加えたい。


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