| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T02-5

イノシシの生息環境としての竹林

安藤誠也(奈良教育大・自然環境教育セ)

近年、農業人口の減少や高齢化によって、管理されなくなった土地が全国の至る所でみられる。耕作放棄された田畑には、イノシシの食料や、潜伏場所になりえる植生が繁茂する。モウソウチク・ハチク・マダケは三大有用竹と称され、筍畑や竹材林として、主に九州から東北地方で植栽されてきた。しかし、海外生産品や石油製品の普及によって放置されている。放置竹林では毎年発生するタケノコが、イノシシの食料になっている。このようなイノシシの生息環境となっている植生が、現存する農地と隣接して存在することが、農作物被害を発生させる一因になっている。

著者は農作物被害地域において、イノシシが年間を通じて放置竹林を、どのように利用しているのかを明らかにするため、調査区を設置し、食痕カウント及び自動撮影装置による調査を実施した。

食痕カウントの結果、イノシシが摂食しているタケの部位は、タケノコ及び伸長中の地下茎であった。タケノコの摂食が開始される時期は、モウソウチクでは発筍期(タケノコが地表に出る時期)の約半年前からなのに対し、ハチク、マダケでは、発筍期とほぼ一致した。またいずれの竹林においても、発筍修了後の時期に、伸長中の地下茎の食痕がみられた。以上のことから、これら3種の放置竹林が同一地域に存在する場合、時期によって餌資源量の増減はあるものの、放置竹林が年間を通じてイノシシの餌場となっている。

自動撮影装置によるイノシシの写真は、タケノコ摂食の瞬間、稈が密生する竹林に潜伏する幼獣、発筍期の竹林において授乳中と思われる親子の姿を捉えた。

放置竹林の拡大が、これを利用しているイノシシの個体数を増加させている可能性がある。またイノシシがタケノコや伸長中の地下茎を摂食することが、竹林の盛衰にどのような影響を及ぼしているのかを、検討する必要がある。


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