| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T05-5

三宅島噴火による枯死木、腐朽木の増加と、それに伴う穿孔性甲虫、特にカミキリムシ相の変遷

槇原寛(森林総合研究所)

カミキリムシ類は主として食材性の昆虫で種類も多い。乾いた材、湿った材、衰弱木、生立木などを食害する種、さらに特定の樹種を嗜好する種、しない種など、様々な食害形態を持った種を含んでいる。三宅島は2000年7月の噴火前まで54種のカミキリムシが記録され、このような食害形態の種が全て含まれていた。三宅島は2000年噴火後、火山ガスの影響で多数の枯木、衰弱木が生じた。2003年に火山ガス高濃度地区でフタオビミドリトラカミキリの大発生が確認された。フタオビミドリトラカミキリは樹皮付きの比較的乾いた堅い材に産卵する。2000年の噴火は7,8月であるが、本種の発生のピークは6,7月なので、噴火時にはすでに産卵されていたと推定される。2004年2月に火山ガスの影響を受けた地域の枯木から本種のものと見られる脱出孔が多数認められた。トラカミキリ類の幼虫は乾燥に強く、条件が悪いと生存期間を延ばすことができる。このため、2003年のフタオビミドリトラカミキリの大発生は2000年噴火前に産卵された個体、2001,2002年産卵の個体も含まれている可能性がある。その後2004,2007,2008年に火山ガス高・低濃度地区の定点での調査と2007,2008年のガス高濃度地区から順次低濃度地区へと変化する坪田林道沿いでの調査を行った。その結果、2004年も火山ガス高濃度地区でのフタオビミドリトラカミキリの大発生が続き、2007年には減少した。2007,08年には枯木でも湿度がありやや硬い木に産卵するニホンチャイロヒメカミキリが増加した。さらに腐朽木食のコバネカミキリが増えてきた。この傾向はガス濃度の高い高地から濃度の低い低地へと移行した。このような大発生の変化はいまだに続いている。


日本生態学会