| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T11-2

伊豆諸島の植生とフロラ

上條隆志(筑波大)

伊豆諸島の植物には、固有あるいは準固有の種や変種が多く存在する。本講演では、伊豆諸島のフロラと植生を概観するとともに、固有あるいは準固有の植物群の特徴とその起源に関する問題について既存研究をレビューする。さらに、島嶼生態学研究をさらに発展させるべく、新たな課題を提示したいと考えている。フロラ区系からみると、伊豆諸島は、八ヶ岳、御坂山脈、富士、箱根、丹沢、伊豆半島、房総半島、三浦半島などとともにフォッサマグナ区系に属し、その中でも島嶼性が著しい部分とされている(常谷・大場(秀)1968)。すなわち、伊豆諸島の植物の起源に関しては、伊豆半島をはじめとするフォッサマグナ区系を含めて考える必要がある。一方、大場(達)(1975)は、固有あるいは準固有の植物群には本州の夏緑林帯に近縁種が多いことに着目し、過去の寒冷期に、これらの植物群が陸橋などを通じて伊豆諸島に侵入した可能性、ならびに伊豆諸島で分化後に本州へと渡り返した植物群もある可能性を指摘している。さらに、いくつかの重要な指摘点としては、琉球方面との類縁性(大場(達)1990など)、ミクラザサなどの日本海側に分布する植物との類縁性(谷本ほか1983;小林1985)、食用等のための人間による持ち込み(広木1985)などが挙げられる。しかし、日本海側との類縁性については、地理的、気候的ギャップが大きく、フォッサマグナ区系の地史的成立背景を含めて慎重に考える必要があろう。一方、伊豆諸島のフロラ成立に関して欠けてきた観点としては、伊豆半島がかつて島であったという地史的背景との関連づけであり、これまで提示されてきたフロラの成立プロセスに関する仮説を再考あるいは再確認してゆくことが必要と考えられる。


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