| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T13-5

地域における水田利用魚類の価値を伝えるツール 〜ご当地田んぼの生き物図鑑作成のねらい〜

金尾滋史 (多賀町博/滋賀県大院)

地域において保全すべき生物や生態系がある場合、研究者が単にそこで研究をするだけでは、保全という目的は果たせない。専門的な知見を得てきた研究者がその価値を伝えるためには地域と関わりをもち、地域の状況を理解し、共に活動をしていくことも必要だろう。そこで研究成果を通じて地域に生息している生物の価値を伝え、保全活動を充実させていくきっかけとして「ご当地生き物図鑑」というツールに注目し、その事例を紹介したい。

滋賀県彦根市西部にある水田地帯では2001年より滋賀県立大学の学生や大学院生が水田地帯の魚類を中心とした水生生物の調査・研究を行なってきた。一方で、それら地域の生物を保全する活動の一環として、調査研究の成果を基に各地で授業、講座、活動協力を実施してきた。その過程において、地元の方からこの地域で見ることのできる生き物図鑑のようなものが欲しいという要望が多く出てきたため、2005年に地元の愛西土地改良区と共に「あいせい田んぼの生き物図鑑」を製作した。この図鑑は学生が中心となって編集やレイアウトを行ない、自然観察会など野外で使えるようにポケットサイズ(A6版)でかつ耐水紙を用いている。図鑑にはその地域に生息している生物しか掲載されていないので、地域の人にとっては市販の図鑑よりも使い勝手はよく、身近な自然・生物を知るためのツールとして機能している。さらに、この図鑑を通じて、地域で新たな保全活動が展開され、地域との関わりが深まることで研究でも新しい知見を得ることができている。

とはいえ、学生や研究者がいつまでもその地域に残って活動を行なうことはきわめて難しい。ということは、地域との関わりは、いつか切れてしまうことになる。私達がその場で研究をしなくなった場合、ただ離れるだけでよいのだろうか?今度は地域の人が中心となって保全活動ができるような「秘伝書」として役割がこのご当地生き物図鑑には込められている。


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