| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T14-2

「軍拡競走の曙、そして、落日: 共進化のモデル系としてのゾウムシ―ツバキ相互作用」

東樹宏和(産総研)

カニの頑丈なハサミと貝の厚い殻のように、敵対的な生物の間では、武器や防衛に関わる形質が「軍拡競走」を繰り広げることがある。しかし、こうした共進化のレースが何をきっかけとして始まるのか、未だにほとんど何もわかっていない。また、軍拡競走は際限なくつづくのか、それとも、何らかの形で終結を迎えるのか、実証研究による知見はほとんど何も得られていない。

この「軍拡競走の起源と結末」という課題に取り組む上で有望な共進化系を、日本に生息するツバキシギゾウムシとその寄主植物であるヤブツバキの相互作用に見いだすことができる。このゾウムシは、体長の2倍におよぶ極めて長い口吻でツバキの果実に穴をあけ、種子内に産卵する。これに対し、ツバキは果皮と呼ばれる分厚い防衛壁をもっており、果皮が厚いほどゾウムシの口吻が種子に届きにくい。興味深いことに、この両者が繰り広げる軍拡競走は、その進行レベルが地域によって大きく異なっている。

この共進化系において、「軍拡競走の進行レベルが異なる」地域間で比較を行い、(1)どういった要因が軍拡競走を促進するのか?、(2)軍拡競走は終わるのか?、(3)もし終結するのなら、ゾウムシとツバキのどちらが勝つのか?、を考察した。本発表では、ゾウムシとツバキの軍拡競走に関するナチュラル・ヒストリーを解説した上で、現在進めている上記の仮説検証について紹介したい。また、ゾウムシーツバキ系をモデル系として取り組んでいる以下の課題についても触れたい。

・軍拡競走の動態は、数kmの空間スケールで変異する(空間統計学の視点から)

・共進化するツバキとゾウムシのメタ個体群(集団遺伝学の視点から)

・軍拡競走は進化的平衡を破るのか? (大進化の視点から)


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