| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T15-2

バイオマス・生産力と多様性指標

甲山 隆司(北大)

歴史的に文化の形成と持続を担ってきた森林は、高いバイオマス蓄積とその長い滞留時間、そして高い一次生産速度で卓越した生態系である。発達した自然林生態系では、林冠高・バイオマス・一次生産速度といった生態系指標に加え、樹木の種多様性も気候パラメータとの間に明瞭な相関を示す。地史的に互いに隔離された大陸間で、樹種組成も異なるにも関わらず、バイオームの相観が気候と対応する事は古くから知られた現象であり、現在の動的全球植生モデリングでも、生活形の機能群パラメータ化の根拠となっている。一方、撹乱や伐採後の森林再生過程では、各指標間の相関は崩れるため、たとえば炭素吸収能と生物多様性保全の評価の間にコンフリクトを生じることになる。このようなコンフリクトを解消して、多面的な森林生態系サービスの評価軸と指標を提供するためには、基礎生態学的な理解が必須である。

森林のバイオマスと生産力の高さ、そして気候条件による収斂現象は、気象環境が許す限り、光を巡る他種との競争に勝ために、幹や枝という支持部分へのコストをかけながらも、より高い位置に葉群を広げていった帰結として高木種が進化したために他ならない。こうした高さの進化は、他方で発達した森林の立体構造の下層スペースを利用する生活形の進化と共存ももたらしてきた。したがって、機構的な観点から、生態系・生物多様性指標間の相関や、時系列的なパターンの違いが説明できる。ここでは光を巡る一方向競争に注目した極めて簡略化したモデルをもちいて、森林の指標間相関の統合的な説明を提供する。そして、生態学的な理解に基づいた、巨視的な時空間軸に沿った調和的な森林の評価軸と指標化の必要性を指摘する。


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