| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T21-1

アリー効果とは何か?どのように生じるのか?

瀧本 岳(東邦大・理)

本発表では,アリー効果の具体例や,アリー効果が生じるしくみ,野生生物の保全管理におけるアリー効果の重要性を紹介して,企画集会の趣旨説明を行う.

1930年代のW. C. Alleeによる先駆的研究のあと,アリー効果はそれほど注目されてこなかった.しかし1990年代からアリー効果に注目した研究が急増した.その背景には,野生生物の保全管理が盛んになったことがある.希少生物の保全や絶滅個体群の野生復帰,資源生物の持続的利用,外来生物の防除や駆除,生物防除用の天敵の導入といった野生生物の保全管理において,小サイズ個体群や低密度個体群の管理は共通のテーマである.そのため,小規模個体群の持続可能性を大きく左右するアリー効果への注目が増えたといえよう.

対象生物の保全管理にアリー効果が重要かを判断するには,アリー効果が生じるしくみの理解が大切である.良く知られたしくみは低密度個体群での交配相手の見つけにくさである.他にも,共同で子育てや狩りをする生物,数の力で環境ストレスを緩和したり捕食者を飽和させたりする生物などでもアリー効果は生じる.また遺伝的不動や近交弱勢を通じてもアリー効果は起こる.

実際の野生生物の保全管理においてアリー効果が重要となる具体例は多い.アリー効果を考慮すると,個体群存続可能性分析はより悲観的な予測をするだろうし,自然保護区の設計や資源生物の持続利用の方針も変わるかもしれない.野外個体群でアリー効果を実証するのは難しいものの,予防原則に従えばアリー効果を考慮すべき場合もあるだろう.またアリー効果の働く外来生物の管理においては,効果的な駆除や封じ込めの方法が工夫できたり,個体群動態の確率論的理解がより重要になったりもする.

できるだけ広範なレビューを通じて,生態学の応用課題におけるアリー効果の重要性を指摘し,企画集会の趣旨説明としたい.


日本生態学会