| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T22-1

我が国のアグロエコロジーとアグロエコロジー研究会の歩み

嶺田拓也(農研機構・農工研)

農学と生態学とを融合し,持続的なフードシステムのデザインの実現を目指すアグロエコロジー(Agro-ecology)は,比較的新しい学問領域であり,我が国に紹介されてからもまだ日が浅い。農学の分野においては,まず,農業生態学として栽培・飼育対象に対する土壌や気象といった環境研究領域としてのAgricultural ecologyが知られてきた(野口弥吉訳「農業生態学」(G.Azzi)1958,小倉武一訳「農業生態学」(J.Tivy)1994など)。Agricultural ecologyは,農業生産性や生産基盤環境に対して,個体群や群集解析,物質フローなども含めた生態学的な手法で解析を加えようとするものであるが,Agro-ecologyは,単なる生態学手知見の適用でなく,農業生産の持続性の維持を目指し,livelihoodやeconomyの観点も含め,生態学的根拠に基づきながらも総合的な農業生産システムのあり方を模索しようとする体系である。そのような総合的な学問体系としてCox&Atkins(1979)やAltieri(1987),Gliessman(1997)らが提案・整備してきたAgro-ecologyを1990年初頭頃に我が国で最初に紹介したのは,日鷹一雅(現愛媛大)であった。その日鷹らが中心となって,自然環境保全と農業の持続性との関係性を広く議論する目的で,アグロエコロジー研究会が生態学会大会内で主催されたのは,1998年の京都大会からである。その後,アグロエコロジー研究会は,環境保全農業,有機農法等の農法論,農業と生物多様性との関係などのさまざまなテーマを取り上げ,冷静に持続的な農業生産のあり方の論議を重ねてきた。本発表では,これまで研究会が取り上げた題材やこれまでの議論などを整理し,12回目を迎えた研究会の歩みを振り返りたい。


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