| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨 |
企画集会 T27-1
日本列島は,地球上の同緯度の温帯域の中でも,飛び抜けて多雨な地域であるため,北米,オーストラリアの内陸部などと比べると,現在における火事の頻度も規模も大きくない。しかし,近年の古生態学的な研究によって,日本列島でも過去約1万年間には火事が多発していたことが明らかになってきた。井上ほか(2001,2005)は,堆積物の微粒炭分析によって,1万年前から7000年前にかけて琵琶湖集水域において,火事が頻発していたことを示した。丹波山地の八丁平(佐々木,2006),蛇ヶ池(高原ほか,未発表),京都盆地の深泥池(小椋,2002;佐々木・高原,未発表)においても同様の傾向が認められた。この時期は落葉広葉樹の拡大期であるが,カシワ(林ほか,未発表)やクリの増加も認められる。また,後氷期中頃にも微粒炭の増加期が認められるが,それらは,共通した時期ではなく,地点によって異なっている。例えば,奈良県曽爾高原においては,約6000年前に微粒炭が増加し,その後にクリの増加が認められた(井上ほか,未発表)。後氷期後期になると,琵琶湖東岸の低地帯では,約3000年前から微粒炭量が増加し,森林に覆われていない立地にイネ科花粉が増加し,約2500年前からは稲作が始まった。約1000年前になると,地点によって詳細な年代は異なるが,近畿地方の各地で,微粒炭の増加と共に植生は大きく変化し,マツや陽樹の落葉広葉樹が増加し二次林化する。この植生の変化と共に,多くの地点で,栽培植物であるソバ属の花粉が出現することから,焼畑によって森林が破壊されソバ栽培が行われていたと考えられる。以上のような近年明らかになってきた火と植生の歴史について,近畿地方を中心に紹介し,本企画集会後半に話題提供される森林や草原の火に対する生態学的な研究成果との議論につなげたい。