| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T27-2

阿蘇・ くじゅう地域における火と草原の歴史

*河野樹一郎(産総研), 佐々木尚子(地球研)

九州の中央部に位置する阿蘇・くじゅう地域では、国内でも最大規模を誇る半自然草原が景観を特徴づけている。これまで、両地域に成立する草原植生の履歴や成立要因については、文字資料に基づいて推測できる歴史時代以降を除き、十分に解明されていなかったが、近年の古生態学的な研究成果の蓄積により、両地域における先史時代の火と植生の歴史が次第に明らかになってきた。

阿蘇地域においては、外輪山上の露頭試料を用いた植物珪酸体分析や微粒炭分析が行われており、1万年以上前から火事が頻発し、その頃からすでに草原植生が成立していたことが明らかにされている。火と植生の関係に注目すると、7300年前のアカホヤ火山灰の降灰以降、火事の履歴を示す微粒炭量が増加するとともに、草原植生の組成はササ属やススキ等が混生する状態から、ネザサを含むメダケ属が優勢な植生へと変化している。当地域では少なくとも1万年以上前から継続的に発生していた火事が植生遷移の進行を阻み、草原植生の維持に関わっていたと考えられるが、草原植生の組成が変化した要因としては、気候変化や人間活動による撹乱頻度の変化が影響したことも想定し得る。

くじゅう地域では、九重火山群北麓のボーリング調査で得られた堆積物試料を用いて、花粉分析や植物珪酸体分析、微粒炭分析が行われ、当地域でも約7千年前にはすでに草原植生が成立しており、火事も度々おこっていたことが示されている。ここでは火事に伴って植生の組成が大きく変化した履歴は捉えられていないが、微粒炭は草原植生が成立していたと考えられる間、ほぼ連続的に検出されていることから、草原植生の維持に火事が関わっていた可能性が高い。

こうした最近の古生態学研究の成果を踏まえながら、阿蘇・くじゅう地域における約1万〜数千年間の環境変化について紹介し、火と植生との関係について議論したい。


日本生態学会