| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T27-3

火が作り出す環境と植物群落

津田 智(岐阜大・流域圏センター)

植生(生態系)に火が入ると,そこにさまざまな影響が現れることが古くから指摘されてきた.たとえば,燃焼やそれにともなう高温の発生により生物が焼死するとか,リターが焼失して裸地ができるとか,炭が降って地表面が黒くなるとか,灰が降るなどの直接的な現象が知られている.そのほかにも,燃焼時の熱が埋土種子の発芽を促進したり,裸地の出現や黒化による地温上昇が種子を発芽しやすくしたり,栄養塩の増加が植物の生長を促したりと,生態系に間接的に働く現象も知られている.

この集会は,過去の火事が現在の植生成立にも影響を与えてきたとの予想のもとに,古生態学的な視点と植生科学的な視点の両方から火事について討論しようと企画されたものである.そこで火生態学の立場から,日本における山火事や野焼き(草原火入れ)がもたらす環境変化と,その後の植生成立への影響について話題提供する.

野焼きでは地上部(気温)が数百度になっても地表以下ではほとんど温度が上昇しない.一方,焼畑では地下10cm程度までは生物を死亡させるのに十分な温度になる.野焼き後の草原で地温を測定すると,地表面の黒化と直射日光の照射による温度上昇は燃焼時の温度上昇よりも大きく,埋土種子の発芽を促進する可能性は高い.温度環境の変化にともなって種子発芽個体の密度が高くなれば,山火事跡地や野焼き地の植生構造が変化することにつながる可能性がある.燃焼時に生産された炭は分解し難いため土壌中に長期間保存される.火事ではまとまった量の炭が生産されても野焼きで生産される量は少ない.しかしながら,野焼きはたいていくり返しておこなわれるため,土壌中に蓄積され続けてきた炭の全体量は少なくないと推定される.


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