| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) A2-01

三方湖(福井県)におけるヒシの繁茂が生態系の季節動態に及ぼす影響

*加藤義和(東京大学・総合文化),西廣淳(東京大学・農学生命科学),吉田丈人(東京大学・総合文化)

三方湖(福井県)では近年、夏季にヒシ(Trapa japonica)が繁茂し水面の大部分を覆うまでになった。ヒシの繁茂によって湿地の生態系が大きく改変されることが世界各地で報告されているが、一年生の浮葉植物であるヒシの季節消長に合わせて生態系がどのように変化するのかは、これまで明らかにされてこなかった。本研究では、ヒシの季節消長に応じて、湖内の物理化学環境および生物群集(ベントス・プランクトン)がどのように変化するのかを明らかにした。

2009年8月から2010年11月にかけて、夏季にヒシが密生する地点(ヒシ帯)と密生しない地点に調査点を設定し、物理化学環境の測定およびベントス・プランクトンの定量採集を行った。ヒシが繁茂し始める6月頃から、湖底付近の溶存酸素は減り始め、特にヒシ帯の底層では、夏季に著しい酸欠状態になった(<1mgO2/L)。その後、ヒシの枯死(11月頃)に伴い、湖内全域で溶存酸素量は回復した。クロロフィル濃度は、夏季には湖内全域で一様に低かったが(<20μg/L)、冬季には著しく増加した(20-100μg/L)。夏季、ヒシ帯の底泥中には、大型のユスリカ幼虫や貧毛類は極めて少なかったが(<50個体/m2)、冬季には、ヒシ帯でもユスリカ幼虫や貧毛類が著しく増加した(50-1500個体/m2)。夏季のヒシ帯には枝角類とカイムシ亜綱が多かったが、冬季には見られなくなった。

湖底付近での著しい酸欠およびベントスの減少が起こるヒシ帯は、湖底を利用する高次捕食者(魚類など)にとって不適な生息場所になっているといえる。一方、カイムシ亜綱のように、ヒシ植物体を生息場所に利用すると考えられる生物の増加が見られた。今後、ヒシ植物体表面を利用する生物相の評価も行うことで、ヒシの繁茂が湖の生態系に及ぼす影響を包括的に評価することを目指す。


日本生態学会