| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) B2-06

多毛類の海洋底質汚染物質浄化に係わる物質代謝機構の解明

*伊藤克敏,伊藤真奈,持田和彦,隠塚俊満(水研セ・瀬戸内水研),太田耕平,三浦 猛(愛媛大・南水研),藤井一則(水研セ・瀬戸内水研)

多毛類は汚染物質に対する耐性が高く、有機汚濁や化学汚染物質を代謝し環境を浄化する能力を持つ。しかしながら、その代謝機構を詳細に調べた研究例は少ない。これまでに我々は、多毛類が生息域に適応した有機汚濁浄化能力を保持していることを明らかにした。本研究では、化学汚染物質代謝機構の解明を目的とし、まず生息域の異なる2種の環形動物の代謝能力を調べた。

試験には、河口域に生息するイソゴカイPerinereis nuntiaと、有機汚濁が進行した底質から採取したCapitella-like speciesを用いた。被験物質として、海洋底質汚染物質として知られる1-ニトロナフタレン(1NNAP)を用いた。試験水として、1NNAP飽和海水の10倍希釈海水を用いた。曝露試験は生物重量あたり150倍量の試験水中で行い、人工底質として生物重量あたり50倍量の硅砂を入れた。また、GC-MSを用いて、試験水中および生体中の1NNAP濃度を測定した。なお、試験期間は72hとし、試験水に硅砂のみを入れた試験区をブランクとした。

試験の結果、72h後のイソゴカイ及びCapitella-like sp.飼育水中1NNAP濃度は、試験開始時の1.4mg/Lから、それぞれ0.56mg/L及び0.012mg/Lまで減衰した。さらに、生体中濃度は、それぞれ38mg/kg及び0.094mg/kgであり、これらから算出した試験系内全体の72h後の1NNAP減衰率はイソゴカイ区が40%及びCapitella-like sp.区が99%であった。なお72h後のブランクの水中濃度は1.3mg/Lであった。以上の結果から、環形動物は種間により異なった代謝能力を有し、特にCapitella-like sp.は極めて高い1NNAP分解活性を示すことが明らかとなった。


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