| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) C2-10

冷温帯下部夏緑広葉樹林における樹木分布と微地形の関係

*若松伸彦(東京農大・地域環境),比嘉基紀(森林総研),加藤崇行,竹内英人,石田祐子,武生雅明,中村幸人(東京農大・地域環境)

植物の分布を理解するには,生育立地の成り立ちや基質といった地形に対する認識が不可欠である.本研究は冷温帯下部の夏緑広葉樹林内において詳細な地形図を作成し,樹木分布が微地形にどれほどの制約を受けているのかを検討した.恒常的な水流のある谷底から尾根に至る斜面に約1.2haの調査区を設け,約5000点の空間位置情報を取得し,GIS(Arc GIS9.3.1)により1m~10mのDEM(Digital Elevation Model)を作成した.調査区内の胸高直径3cm以上の全樹木個体を対象に個体位置,樹種を調べ,DBHと樹高を計測した.

1mDEMより作成した斜面傾斜角度の分布図より,連続する上位,中位と下位3本の遷急線と谷底付近に1本の遷緩線が抽出された.これら傾斜変換線は,2m,3mDEMからの傾斜分布図で確認された一方,5m以上のDEMより作成した傾斜分布図では認められなかった.

調査区内で出現した木本種は79種であった.個体密度は中位の遷急線と谷底付近の遷緩線の間の斜面で高く,尾根や凹状地形で低かった.単位面積あたりの胸高断面積合計は,上位と中位の遷急線の間で最も高かった.ツガ,モミ,リョウブ,アセビ,ハリモミ,オノオレカンバは中位の遷急線よりも上部で,サワシバは中位遷急線と遷緩線の間で,チドリノキ,アブラチャンとシオジは下位の遷急線の斜面下方にそれぞれ多く出現した.イヌブナとミズナラは斜面に広く出現したが,斜面上方に大径木が多く胸高断面積合計も大きくなった.また,ハクウンボクやアワブキは中位遷急線付近に斜面に平行にライン状に集中分布していた.

このように冷温帯下部の山地斜面における樹木分布は微細に変化する斜面傾斜の変換線によって種の棲み分けや同じ種内でも個体サイズに違いがみられることが明らかとなった.


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