| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-13

土壌炭素モデルの垂直構造化と放射性炭素データによる検証

*伊勢武史(海洋研究開発機構・物質循環), 加藤直人(海洋研究開発機構・物質循環)

土壌有機炭素(SOC)の蓄積・分解のダイナミクスは炭素循環を通して気候に影響を与え、ひるがえって気候はSOCのダイナミクスに影響を与える。このフィードバックを的確に解明することは気候変動の予測精度の向上に不可欠であるが、このフィードバックの過程は気候モデルや陸域生態系モデルに十分に組み込まれていない。特に、大量のSOCが蓄積されている北極高緯度地域では、気候変動による永久凍土の崩壊などが劇的な土壌環境の変化をもたらし、それによってSOCの急速な分解が進むことが懸念されているが、これら北方林やツンドラの土壌環境の変化とそれに付随する土壌微生物活性の相互作用は、これまでのシミュレーション研究では再現されていなかった。そこで本研究では、アラスカの有機土壌をケーススタディとして用い、物理メカニズムに基づく土壌環境のシミュレーションと土壌の物質循環シミュレーションを結合し、相互に影響を与え合うシステムを構築した。深さや温度・水環境によって異なるSOCの状態を的確に表現するため、土壌の垂直構造を明示的にモデル化した。これにより、分解速度が比較的早く空隙の大きなリター層や、分解速度が非常に遅く透水係数の低い腐植など、異なるSOCのタイプが土壌の温度・水環境に与える影響を物理法則に基づいてシミュレーションできるようになった。モデルの出力結果は、アラスカ州フェアバンクス近郊で観測された温度・土壌水分量などの物理環境条件や、深さごとの炭素蓄積量・放射性炭素を用いた年代測定の結果などの詳細なデータと比較され、モデルが土壌中のプロファイルを的確に表現するポテンシャルを持つことが分かった。このシミュレーションモデルを用いた、広域での土壌炭素動態のシミュレーションが期待されている。


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