| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-01

植物リターによる土壌分解過程の制御を弱める微生物群集の機能的多様性

*潮雅之(京大・生態研センター),三木健(台湾大・海洋研),Teri C. Balser(Univ. of Wisconsin-Madison)

植物・土壌間のフィードバック作用は生態系内の栄養塩循環や植物群集の構造の決定に大きく寄与する。植物はリターの化学性を介して土壌の栄養塩無機化過程に影響を与え、その影響は次世代の植物のパフォーマンスにフィードバック効果を及ぼすと考えられる。しかしながら、この植物・土壌間のフィードバック作用において、土壌微生物群集の多様性の役割は最近まで無視されてきた。そこで、まず数理モデルによって、土壌微生物群集の多様性が植物・土壌間のフィードバック作用に及ぼす影響が検証された。その結果、機能的に多様な土壌微生物群集は、植物リターによる分解過程の制御を和らげ、その結果植物群集の動態にも影響を与えるという予測が得られた。

本研究では、この数理モデルによる予測を実証研究によって検証した。分類群特異的な殺菌剤によって、細菌が優占する土壌、真菌が優占する土壌を作成し、また、蒸留水のみを処理した区を細菌と真菌が共存する区とした。細菌優占区、真菌優占区を微生物が機能的に多様でない区、共存区を機能的に多様な区とみなした。これら3種類の土壌に対して、5種類の異なる分解性のリターを添加し、28日間培養し、土壌呼吸速度、窒素無機化速度、土壌酵素活性を測定した。その結果、細菌優占区と真菌優占区の土壌呼吸速度は植物リターの分解性に依存したが、共存区ではその依存性は低かった。また、窒素無機化速度、土壌酵素活性においてもほぼ同様の傾向がみられた。これらの結果は、土壌微生物群集の機能的な多様性が植物リターによる分解系の制御を緩和することを示している。従って、土壌微生物の機能的な多様性は植物・土壌間のフィードバック作用を介して、植物群集の構造や生態系内の栄養塩循環に影響を及ぼすであろう。


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