| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-07

ヤマトシロアリの攻撃行動における雌雄差

*北出理, 権田まり子(茨城大・理)

シロアリのコロニーは、同じく高度な社会性をもつ社会性膜翅目の種とは異なり、雌雄個体が常に共存する。性やカスト間で利害対立がある状況での行動の性差は、シロアリの社会性の進化・維持要因を探る手がかりになると考えられる。しかし、生きたワーカー等の性判別が比較的難しいこともあり、シロアリにおける行動の雌雄差の研究例は多くない。

本研究では、ヤマトシロアリReticulitermes speratusのワーカーの雌雄各80個体、ニンフ各20個体、ソルジャー各5個体からなるシロアリの実験コロニーを計22作成し、最大で35日間飼育して幼形生殖虫を分化させた。これらのコロニーを用い、(1)コロニーに導入した別種ワーカーに対する攻撃、(2)生殖虫不在のコロニーで多数分化する幼形生殖虫に対する攻撃、の2つについて、ビデオカメラで撮影し、雌雄の個体が「かみつき」などの攻撃行動を行った頻度を調べた。

別種個体に対しては、主にワーカーとソルジャーが攻撃した。頻度が高かったワーカーについてみると11回の試行中1回でメスが有意に多く攻撃に関与したが、その他の試行で性比に有意な偏りは見られなかった。

新生殖虫に対する攻撃はワーカー主体で、ソルジャーはほとんど関与しなかった。幼形生殖虫への攻撃では、両性のワーカーが攻撃に関与したが、攻撃したワーカーの性は全試行でオスに偏り、偏りはメス幼形生殖虫への攻撃では7回の試行中2回、オス幼形生殖虫への攻撃でも4回の試行中2回で有意であった。新生殖虫への攻撃行動が進化した要因には、少なくとも同性個体間の繁殖を巡る直接競争だけではなく、コロニー内での繁殖者数の最適化が含まれると考えられる。さらに、別種ワーカーに対してと同巣の幼形生殖虫に対してとで、攻撃するワーカーの性比が異なる理由について考察する。


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