| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G1-13

生活史の違いで化学物質の生態毒性はどう変わるか

*加茂将史(産総研・安全科学), 秋田鉄也(総研大・先導研), 林岳彦(国環研・環境リスク)

化学物質汚染地域から採取された生物は、順化・適応の結果として化学物質に対し低い感受性(高い抵抗性)を示すこともあれば、示さないこともあり、感受性に大きなバラツキがある。本研究では、生活史進化の理論モデルを用いてそのバラツキが存在する理由について調べた。

生物は環境から資源を吸収し、得た資源を繁殖、生命の維持、化学物質の毒性の緩和に配分するという仮定をおいた集団動態モデルを構築し、環境条件に応じて進化的に最適な配分比がどのように変わり、配分比に応じて化学物質への感受性がどのように変わるのかを調べた。

結果は、化学物質が無い環境で適応した生物は、毒性の緩和に対しては資源を配分しない。また、低密度で飼育された生物は、高密度で飼育された生物よりも、繁殖により多くの資源を投資するr-選択的な戦略になる。さらに、r-選択的な生物は、化学物質に対して感受性が低い(化学物質に抵抗性がある)ことがわかった。

次に、化学物質の汚染がみられる環境で、進化的に最適な配分比を求めた。配分比はどの程度効率よく毒性が緩和されるかに依存し、投資する資源量により指数的に緩和されると仮定した場合、緩和率が悪いと(効率が悪いと)、緩和に対し資源を配分しないが、効率が良いと一定量配分することがわかった。さらに、少しの投資では毒性はほとんど緩和されないが、ある一定量投資すると急速に緩和される、という関係にあれば、毒性の緩和へと投資を行い低い感受性を獲得する戦略と、投資せずに感受性が高いままの戦略が進化的に双安定になり、初期値に応じて感受性が異なることがわかった。この結果は、汚染地域に順化・適応した生物における、感受性のバラツキを説明する。


日本生態学会