| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-01

ホンシュウハイイロマルハナバチの遺伝的多様性

*田中 洋之(京大・霊長研),須賀 丈(長野県環境保全研),丑丸 敦史(神戸大・発達科学),湯本 貴和(総合地球環境研)

ホンシュウハイイロマルハナバチ (Bombus deuteronymus maruhanabachi) は,東アジア大陸や北海道に生息するハイイロマルハナバチ (B. d. deuteronymus) の本州産亜種である.須賀ら(2009)が行った長野県におけるマルハナバチ各種の分布と植生景観や標高・土壌との関係の分析で,本種は半自然草原に強い結びつきを示すことが明らかとなった.このような半自然草原は,過去数十年の間に急速に減少しているため,本種の生息場所の減少や分断化が危ぶまれており,事実, 長野県において本種は絶滅危惧II類に分類されている.本研究は,半自然草原の重要な送粉昆虫であるホンシュウハイイロマルハナバチの遺伝的多様性を明らかにするために,マイクロサテライトDNAマーカーを用いて分析を行ったので,報告する.分析対象の個体は,霧ヶ峰群(n=16),八ヶ岳麓群(n=21),開田高原群(n=27),飯縄高原群(n=7),東御小諸群(n=7),軽井沢群(n=10),伊那群(n=10)および菅平群(n=27)からなる合計125個体である.マイクロサテライト10遺伝子座の遺伝子型判定を行い,各遺伝子座の遺伝的多様性のパラメータを算出した後,長野県内の個体群の平均ヘテロ接合率(He)を計算した.群間の遺伝的分化量を,FstとNeiの遺伝距離によって測定した.分析した10遺伝子座の対立遺伝子数およびヘテロ接合率は,長野県全体で2〜13個および0.161〜0.815であった.各個体群のHeは,0.411±0.072〜0.494±0.062であった.遺伝的分化の調査から,伊那群および開田高原群が,長野県内の他の個体群から有意に分化していることがわかった.


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