| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-10

湖岸植生群落の発達が栄養塩循環に与える影響

*福山 朝子,中村 祐太,浅枝 隆(埼玉大学院理工),浅見 和弘(応用地質株式会社)

洪水調節ダムの貯水池内では夏期に水位低下が生じ、水位の移行帯に草本類が繁茂し、場所によっては木本類が生えている。草本類の多くは1年間生長し、枯死後分解され、土壌中に栄養塩が回帰するため栄養塩循環速度は速い。ただし、樹木の陰ではバイオマスの量は減少する。一方、木本類は葉を除く木本部の栄養塩類は長期間蓄積される。こうした複雑な環境下での栄養塩循環速度を評価した。

調査は福島県の三春ダムで行った。ここには遷移帯に草本類だけではなく、タチヤナギ(Salix subfragilis)、イタチハギ(Amorpha fruticosa)などの木本類も繁茂している。

三春ダムの3つの前貯水池において各数カ所のコドラートを設定し、天空率の計測、50cm四方内の草本バイオマス測定、植物・土壌サンプルの採取より栄養塩(全リン・全窒素・全炭素)・窒素及び炭素安定同位体比分析を行い、以下の結果を得た。

草本バイオマスは天空率・土壌窒素含有率に依存し、特に、タチヤナギが密生して生じた天空率の低下と共に低下した。年間の窒素循環量については、草本バイオマスでは天空率が100%の時は11.4 g/m2であったが、天空率が5.76%では、2.67g/m2に減少した。一方、タチヤナギ群落の樹木密度は平均0.9本/m2であり、1年間に根から吸収する窒素量は合計で164 g/m2であった。その内、葉により回帰するものは113g/m2、葉を除く地上部に吸収されるものは51g/m2であった。ただし、土壌窒素濃度とイタチハギ中の窒素安定同位体比には正の相関が見られるのに対し、根粒菌非共生植物には相関が見られなかったことから、根粒菌の窒素固定によって土壌中に窒素分が供給されると考えられる。


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